2018年9月16日日曜日

【小説】赤目姫の潮解by森博嗣 ただの入れ替わりネタのスケールの小ささを感じた。


私が以前言葉とか日本語というものに目覚めた時期があり(中二病?)、一度だけ購入したユリイカの特集が森博嗣さんでした。 

そして、ミステリィかー、昔は好きだったけどもう興味ないな、と斜め読みしていた中で、唯一あらすじを見て興味が湧いたのが百年シリーズ。 
(読んだことある人にはわかると思いますが、森さんはカタカナ語の表記が独特かつ正確なので今回はこれでいきます)

 シリーズは全3作、1作目から順に女王の百年密室、迷宮百年の睡魔、赤目姫の潮解です。 

百年というのはロマンチックなようでいて、よく考えると現実的で生々しい数字ですよね。 単純に長い時を表すなら千年の方が一般的ですし。 

そこからも想像できるように、SFと見せかけて現在と地続きになっているような、独特な世界観が出来上がっているのがシリーズ全体の特徴です。

3作目の赤目姫の潮解の文庫本の表紙はこんな感じ↓


(画像は実物の本を自分で撮影したもの)

なぜいきなり3作目を紹介しているのかというと、他2作と比べて明らかに異色だからです。

様々な場所に書かれていますが、それまでの登場人物が出てこない、ストーリーが一見複雑難解(幻想小説のようにも読めると言われています)など。





意識は混信する

この話では、赤目姫の周りで意識の混信が起こります。

自分の思考回路を保ちつつ、他人の目を通して世界を見る。

体がそのままで精神が入れ替わるわけではありません。

もっとフラッとした感じで、一瞬だけ他の人の身体を借りるイメージ。

視力がいい個体を近くて探して…、なんてことまでしているシーンもあります。

自分は自分であるまま、時に自分が他人に、他人が自分になり、境界が曖昧になっていきます。


このエピソードは人間のアイデンティティの崩壊を意味しているように思います。
個人としても、種としても、です。小さいようで壮大です。

なぜなら、人間の一番のアイデンティティはおそらく、自分だけの思考を持っていることだからです。


そもそも生きていること、自分が自分であること、物が見えていることに意味はあるのかという疑問。

自分のものだと思っている意識という「信号」はただ気まぐれに操られているだけかもしれないということ。

登場人物はそういったことを考え始めます。

これは、一つには、人間一人が生み出せるものはごくわずかであることを表しているのではないかと思います。
穿った見方ですが。

自分が今考えていることはほとんど自分で考えたことではありません。

他人が過去に考えたことの影響を受けています。

それが何らかの媒体を通してではなく、「意識」という曖昧なものを通して直接行われたら、という仮定を書いているのではないかと。


「意識が混信する」というのは、例えば、魂がさまようというような、純粋なファンタジー世界にも実は存在するといえばしますが、これはそれとは異なります。

膨大な過去が蓄積した結果(=現代から見て未来の世界で)、人間とか個人という枠をこえて新しいステージに到達したということだと思います。

(…と書きましたが、舞台設定が20世紀のように読み取れる描写もあります。未来とか過去ではなく、そもそも時間自体が切り離された世界なのかもしれません。「そもそもジャズが50年前からあったのかわからない」みたいな信じられない一文もありますし)



赤目姫とは何者か

本文中でも考察されていますが、デバイスのような存在か、または私たちの世界の人間にとっての神(人間を操る存在)だと思われます。

少なくともシンボル的な存在であることは確かです。

彼女は普通にしゃべるということをしません。音を発しているのか発していないのか微妙なところですが、とにかく唇の動きで周りの人間にすべてを伝えてしまいます。

人の脳に直接信号を送っているのでしょうか。

赤目姫の過去(?)のエピソードがありますが、寂しかったからこの世界を作ってしまった、そして一部の、自分たちの生に疑問を持ち始めた人間を選んで世界を俯瞰する側に連れ込んだ(ラストシーンその他)ようにも見えます。


◇なぜ赤目姫の「潮解」なのか

潮解をスマホで変換しようとしたら出てきませんでした。まあ化学用語ですからね。

潮解が起こるには固体と水が必要です。

この場合おそらく固体にあたるのは赤目姫だと思います。水にあたるのが周りの人間たちです。

とすると、周りの人間が赤目姫に引き寄せられて行って、新しい状態(=水溶液)になるということでしょうか。

そして、その新しい状態というのは、元々別の存在だったものが、区別がつかなくなってしまった状態なわけですね。確かに水溶液だとそれと合います。


最後に

頑張ってそれらしい(?)ことを書いてみましたが難しいですね。

読者一人一人の勝手な考察が答え、みたいな気もします。

普通の小説の感覚で読むと
大変ですが、雰囲気に浸るのにいい一冊です。

特に詩のようなパートは視覚的にも美しいです。


こちらもどうぞ↓
シリーズ1作目『女王の百年密室』の世界を考察する:https://hana00000.blogspot.com/2020/07/blog-post_22.html


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