2020年7月22日水曜日

【小説】『女王の百年密室』(森博嗣)の世界を考察する

かなり前にこのシリーズの最終作とされている『赤目姫の潮解』について書いたのですが、こちらについては(規約的に)書きづらくて放置してました…。

で、今回、ストーリーの内容というより設定とか世界観について思うことがあるので書いてみます。

小見出しが一見意味不明ですが…、いきます。



エネルギー問題が解決している世界

小説の解説には、「安全で小型な原子炉のようなものが存在する世界」みたいな感じで書かれていたと思います。

2011年にあんなことが起こらなかったら、という世界であると。

本編にははっきりは書いてありませんが、確かにエネルギー問題で特に苦労している様子はなさそうです。

(施設の耐用年数がギリギリという話はしていますが、それはまた別なのではないかと思われます)

同様に、環境問題も特に深刻な様子はわかりません。世界全体でどうなのかは微妙ですが。

この時点でおそらく100年後も実現不可能な世界です。



性別ですらプライバシーの世界

女王の百年密室(と次作の『迷宮百年の睡魔』)では、世界全体で人権とかいろいろな少数者への配慮がとても進んでいるように思われます。

というか、もはや「少数」とかではなく「性別すらプライバシー」なのです。

100年後に人類がそこまで割り切ることができるのでしょうか。

私はやはり実現しない世界だと思います。




人と人が会える世界

これは2020年にならなければ気づかなかったことですが、

「紙の本は基本的に存在しない」ほどデータ化が進んだ世界でこれほど人と人が直接会っているのは実は奇跡なのかもしれません。

そもそもミチル自身わざわざ遠くから来ていますし(アキラも?)、ルナティックシティ内でも人と会って話をしているシーンが印象的です。
(脅してまで女王の寝室に行くシーンとかは特に)

小説だからそのほうがドラマチックだよね、というのももちろんあるとは思いますし、エネルギー問題が解決していて今よりもさらに簡単に、気軽に海外にも行ける状態ならおかしいことではありません。

(いや、そもそも人同士が直接会うのは小説でも現実でも本来普通ですよね)

でもやっぱり、今みたいななんでもリモートで、オンラインで、という時代が来てしまうと、改めてその凄さに圧倒されるわけです。

漫画版も併せて見るとわかりますが、マノ・キョーヤとミチルの気まずさとか、サラが復讐(?)しにくるところとか、王子が長い眠りにつかされることになった理由とか。

未来的なSF的な世界なのに、現実よりもずっと人と人が精神的にも肉体的にも心からぶつかり合っている実感を持っているように思います。

あ、そうそうこれ結構恋愛小説ですよね。

(平安時代とかの物語に似たものを感じるのは私だけでしょうか。
ロイディが女房で、ミチルが内向的な主人というイメージ)



閉じた世界の限界

ルナティックシティでは情報が制限されています。

本来(古来の?)、人間が知っている情報なんてわずかなはずですから。

ただし、この世界では「制限」されているだけで、その気になれば膨大な情報に触れることができてしまうはずです。

住人たちは幸せなのでしょうか。

まあ、そういってしまうとわかりませんが、「人口は減る一方」というのが答えではないでしょうか。

激しい苦しみや痛みはそもそも教えられて育っていないから(自分に対しても他人に対しても)残虐なことをしてしまう人間は基本的にはいないけれど、その代わりに穏やかに「長い眠りにつく」ことを選んでしまうのではないでしょうか。

人間は何らかの危険と隣り合わせだからこそ生きようとするのかもしれません。

あとは施設の耐用年数とか、街の存在を周りに対して隠しているとかも書いてありますね。

ファンタジー的に書かれてはいますが、そういうところを現実的に考えるとそうそう甘いはずがありませんね。

あと気になったのは人数の少なさですね。

目覚めている150人というのは、ほぼ、お互いが顔を見合わせて認識し、話し合える最大の人数と同じです。

おそらく住民同士は(基本的に)全員認識し合っているのではないでしょうか。パーティーの時には全員集まることも可能でしょう。

その人数だからこそ普段の生活がうまく行くと同時に、子孫を残して何世代も生きていくには人数が少なすぎるわけです。

そこらへんも含めて「クロウの代にはこの街は終焉」なのではないでしょうか。



現実は反対の方向に進んでいる

ここまで見てきたように、実際の現実とは異なる点が多くなります。

解説にもあった通り、総合的に見てifの世界なんだなあ…と思わされますね。


同シリーズの『赤目姫の潮解』の考察→https://hana00000.blogspot.com/2018/09/by.html

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